2006年1月20日
(社)交通工学研究会 資格委員会
平成17年度TOP資格試験(2005年12月実施)で、全70問の各正答率(正答をした人の割合)は、最高93.1%から最低13.8%の間に分布し、平均正答率は62.4%(前年度は69.5%)となっています。以下では、この中の下位6問(正答率35%強以下)を取り上げ、その回答状況を紹介して参考に供します。
◆正答率ワースト1位(13.8%)【問題59】
◆正答率ワースト2位(20.1%)【問題9】
◆正答率ワースト3位(30.3%)【問題52】
◆正答率ワースト4位(31.6%)【問題7】
◆正答率ワースト5位(35.2%)【問題22】
◆正答率ワースト6位(35.6%)【問題45】
【問題59】 右折専用現示のある4枝交差点において、右折車線から右折車が溢れて直進車線を塞いでおり、このためこの直進流が渋滞している。この直進以外の方向については、現在の信号秒数で十分に需要をさばくことができている。このような場合に、信号調整による対策としてまず検討すべきことは次のうちのどれか。 (1) サイクル長を長くして、長くした分だけを右折専用現示に割り当てる。 (2) サイクル長を短くして、1サイクルあたりの右折需要を小さくする。 (3) スクランブル制御に切り替える。 (4) 右折のクリアランス時間を長くする。 (5) サイクル長はそのままで、余裕のある他の現示からこの右折現示に可能なだけの青時 間を振り向ける。 |
【評言】
この問題で与えられている状況について、「この右折流は渋滞していないので、右折専用現示のスプリット不足による現象ではなく、右折車線の長さが、1サイクルの間に到着する右折需要によってできる滞留を収容するに十分でないことによる現象」という理解ができれば、誤答率の高かった(5)を正答として選択することはない筈です。このような現象の認識が不十分で、問題文の論理解釈が正しくできなかった人が多かったものといえます。
【問題9】 q-k曲線(kを横軸とする)の性質に関する次の記述のうち、誤っているものを選べ。 (1) 曲線上の点と原点を結ぶ直線の傾きは空間平均速度である。 (2) k=0における接線の傾きは自由速度である。 (3) 上に凸で最大交通量が存在する。 (4) 一般に1つのqの値に対して2つのkの値が存在する。 (5) kが飽和密度より大きい交通状態を渋滞流という。 |
【評言】
交通流の基本特性の1つに関する本問題の正答率の低さは意外です。回答が大きく分散しているのが特徴的です。q-k曲線の形は多分知っていたとして、自由速度や飽和密度という用語の定義、あるいはq、kという記号について確たる知識が欠けていたために、選択にまごついた人が多かったものと解されます。
【問題52】 次の文章の空欄A〜Dに当たる語句として、正しいものの組み合わせを選べ。 孤立交差点で交通流の( A )な到着を仮定する場合の最適サイクル長は、( B )の公式などを用いて決定することができる。通常このサイクル長は、最小サイクル長のおおよそ( C )倍の長さになる。一方、到着パターンが上流交差点の影響を受ける都市内交差点では、サイクル長は孤立交差点における最適サイクル長よりも( D )すべきである。
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【評言】
この問題文は最適な信号サイクル長の重要な特性を簡潔に文章化したもので、選択肢を消去法で詰めれば、おのずから正答に至る筈です。決して難問ではありません。ここに包含されている現象は、記述は短いものの信号サイクル長についての正確な理解を要求しています。今後の勉強の仕方の参考にしてもらいたいと思います。
【問題7】 正規分布に関する次の記述の正誤について、適切な組み合わせを選べ。 A: 多くの交通現象は正規分布で近似できる場合が多いが、地点速度の分布はその例外である。 B: 正規分布は平均値0、標準偏差1の分布形である。 C: どんな分布形に従う確率変数でも、その平均値の分布は正規分布となる(中心極限定理)。
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【評言】
選択率の分布から見て、問題文のBを正しい記述と誤った人が半数を超えているようです。問題文のBは、正規分布の中の標準正規分布と称する分布(確率変数を平均値と標準偏差で規準化した正規分布)の記述です。用語についての不正確な知識が災いしているといえます。
【問題22】 道路の機能に関する次の記述のうち、誤っているものを選べ。 (1) 道路の機能は大きく交通機能、空間機能に分けられる。 (2) 交通機能としては通行機能、アクセス機能、滞留機能がある。 (3) 空間機能としては市街地形成、防災空間、環境空間、収容空間としての機能がある。 (4) アクセス機能は沿道施設に容易に出入りできることである。 (5) 収容空間としての機能は駐車場や停車帯の整備によって発揮される。 |
【評言】
この問題で、道路の機能の1つとしての収容空間を、駐車や停車の需要を収容する空間と解しているらしい人が65%もいたというのは驚きです。ここでの収容空間とは、「都市モノレール・地下鉄等の公共交通機関や駐車・駐輪施設のような交通施設、および情報通信施設やライフラインを収容する空間」を意味します。このように用語についての知識が不完全では、専門分野での情報の伝達、交換、共有は覚束ないものになります。
【問題45】 夜間事故対策の効果を事前事後比較するに際して、時間経過に伴う道路交通状況の変化による影響を補正するねらいで、昼間事故件数も取り込んだ次式を用いることがある。この式のA〜Cに当てはまる事項の正しい組み合わせを選べ。 対策効果=A×B/C−夜間事故件数(事後) A B C (1) 夜間事故件数(事前) 昼間事故件数(事後) 昼間事故件数(事前) (2) 夜間事故件数(事前) 昼間事故件数(事前) 昼間事故件数(事後) (3) 昼間事故件数(事後) 昼間事故件数(事前) 夜間事故件数(事前) (4) 昼間事故件数(事前) 昼間事故件数(事後) 夜間事故件数(事後) (5) 夜間事故件数(事後) 夜間事故件数(事前) 昼間事故件数(事後) |
【評言】
対策の効果評価の1つである二対比較法の問題ですが、誤答で多い(2)は、比例補正計算の分母と分子の取り違えです。二対比較法という用語を知らなくても、論理を理解すれば判る問題であり、落ち着いて対応してほしいと思います。
以上見てきたように、選択肢を選ぶにあたっての正誤の判別作業には、問題によって2つのパターンがあるといえます。1つは、用語や文章理解の手がかりとなる言葉(キーワード)の正しい知識によって判別できる場合です。上記のワーストでは、ワースト2位の【問題9】、ワースト4位の【問題7】、ワースト5位の【問題22】がその例です。このタイプでは、誤りのある問題文や選択肢の文には、必ずどこかに明らかに誤った言葉や記述が意図的に組み込まれています。もし選択に迷ったら、正答は別にあるのではと見直してみるのも一法かもしれません。
もう1つのタイプは、用語やキーワードあるいはそれらの使い方に誤りはないけれども、そこで述べられていることが本当かどうかを、自分の持っている現象の知識や論理に照らして判断する必要がある場合です。ワーストの例では、ワースト1位の【問題59】、ワースト3位の【問題52】、ワースト6位の【問題45】がこれに当たります。
いずれにしても難問や正誤が曖昧な問題はありません。交通技術の世界での常識に照らせば判る問題といえますが、逆にこれらの知識や理解能力がこの世界では常識として要求されているともいえます。そしてそれらは実務や学びの場で培われ蓄積されるわけですが、TOP資格試験のための仕上げには、(社)交通工学研究会編「道路交通技術必携」の内容についての、満遍ない徹底した理解をその目安とするとよいと考えます。
以上