ITSのある生活(No.6)
「定住から交流へ」 / 都心電車にみる“最初に統一ありき”か“最初に技術ありき”か


○赤羽委員長
むしろ、交通の分野で求められているのは、そちらではないかと思います。
ITSという訳語の1つとして“高度道路交通システム”があるので、皆さんは車とか道路に限定すべきであるとお考えになっていたら、それはもう取り払っていただいて結構です。要するに、私たちの移動とか、あるいは物の運搬をなるべく便利に快適で効率的にするためには、交通手段は限定されるべきではなく、いろいろな組み合わせが可能であることが必須です。
そういう意味で考えると、例えば東京では地下鉄と私鉄の郊外電車とで共通利用できるパスネットが導入されましたね。その後すぐに Suicaが出てきました。それからETCのICカードも、それらとは互換性がありません。これら機能を、例えば1枚のICカードに集約できたら便利だなと思っている人は少なくないでしょう。
ところが、現実には何故できないのか。共通のプラットフォームが必要ですよと思うだけで自然にできるのか、あるいは何か仕掛けがあって個々の鉄道会社なり道路管理主体なりが何らかの形で動機づけされないと実現されないのか。
つまり、技術はあっても、その技術をうまく使うための仕組みをつくろうという動機づけがされていないところがあるんだろう思っています。

○長谷川
それは多分そのとおりだと思いますね。ただ、 Suicaとパスネットの話のときは、最初に大分JRが Suicaの方を進めていて、結構固まったところでパスネットの方のやつが磁気式で出てきた。
方式が全然違うから、やっぱり同一にするのは技術的にかなり難しい問題のようなんですね。「今さらそっちには乗り換えられないよ」ということがJRとの話し合いの中で言われたらしい。今さら私鉄側のパスネット側と同じようにはできないよという、技術プラス方針ですからね。
方針ということは、技術的な制約における会社方針があったというふうに聞いています。

○赤羽委員長
それは、1つは物事の進め方として“最初に統一ありき”か“最初に技術ありき”かの違いでしょうね。もし共通のプラットフォームを構築することに重きを置くのでしたら、最初にそこから話が始まるのでしょう。
何らかのポリシーの結果として、共通性とは違う評価基準が存在するので、物事の進め方もそれに従っているのではないか思っています。うがった見方でしょうか。

○長谷川
多分シームレスに1つのカードで移動しましょうなんていう話の大概念があったら、先生がおっしゃるように、最初から統一的なプラットフォームにいったはずなんですよ。それが別々に話が進んでいて、システムからボトムアップしていったでしょう。
だから、もう両方ともある時期まで来たら、どっちかが完全に折れて一緒にならない限りは一緒になれず、もうどちらも多分後退することはできないところまで来ちゃったんだと思うんですよね。
だから、やっぱり上からおろしてくる必要があって、シームレスに移動するにはどうしたらいいんだろうっていうことから最初から考えていれば、そんなことはなかったはずだという気がしますね。

○赤羽委員長
それは政策の問題なのでしょうか、それともユーザーが大人しくて文句をつけないからからなのでしょうか。
例えば、さきほどの深川で散歩して深川飯を食べているという人も、それは地元の人もいるかもしれないですけど、そういういい散歩コースがあるからというので、電車を乗り継いで行っている人もいると思います。そういう人が2枚も3枚もカードを財布から出して一々精算する必要があると、途端に移動が面倒になりませんか。私の周りにも文句を言っていた人がいます。いつも夜遅く帰って自宅最寄りの駅で精算しようとすると、「あしたまた来い」と言われるとかですね(笑)。
ですから、個別の技術は優れているのに、それらをうまく融合させられないので移動が制約されてしまうわけですね。

○三浦
今思いついたんですけれども、例えば私鉄というのは鉄道だけでは絶対赤字になるので、それこそ郊外開発をして住民をふやして、定期券をいっぱい買ってもらって、それで黒字にするわけですよね。でも、もうそういう時代じゃないじゃないですか。人口も増えないし、郊外流出も大体とまってきているし、団塊世代が定年すれば通勤人口は減るかもしれない。
そうなると「定住から交流へ」じゃないけれども、郊外定住人口を増やすのではなく、移動する機会をふやしてほしい。郊外開発をしている時代であったら、小田急線で京王線にも乗れるというのは小田急は絶対しないですよね。
でも今は、小田急沿線の人はどんどん井の頭公園に行ってくださいとか、むしろ交流の機会をふやすという方向に私鉄各社が哲学として合意したということでしょうね。
そんなことは考えていないかもしれないけど、だけど結果から見ると、今のお話を絡めるとそいうことですよね。
だから、きのう来た深川飯の人は6人いたんだけれども、1人はどうもしゃべり方から江戸っ子で、あとは全部山の手から来ているんですよ。顔を見ればわかりますけれども、職人とかそういうのじゃない、普通の山の手の奥さん、おばあさんなんですね。知り合いがいたのか何なのか、きょう初めて来たみたいな感じでしたよ。もしかしたらそれはNTTのドコモのCMみたいに、インターネットで俳句でもやっている仲間かもしれないわけですよね。
だから、まさに通信が新しい仲間をつくり、交通にストレスがなければ世田谷の人が深川に来ちゃうというようなことはどんどん増やしていけるんじゃないですか。

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